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まあ思いついたことをつらつらと書き綴っています(写真は奥多摩から見た富士山)。


by M.M@Kanagawa
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頓挫した雇用促進策

今期の民主党による事業仕分け(第3期)において,事業廃止の方針が打ち出されたものに「ジョブ・カード制度」があります。
この制度について,一般の方で知っている人はあまりいないと思いますが,これは2年前から実施されていたのですが,この制度運用による雇用実績があまりあがっていないため,制度見直しではなく廃止の評定を受けてしまうことになりました。

【ジョブ・カード廃止関連のニュース】
事業仕分け:第3弾 「労働特会」5事業廃止 ジョブカードなど(毎日.jp)
特会仕分け、雇用事業の大半廃止 行政刷新会議(政治 - エキサイトニュース)
5事業「廃止」、5事業「事業の見直し」(TBS・News i)
事業仕分け第3弾前半戦 ジョブ・カード事業廃止など制度自体のあり方見直す判定相次ぐ(FNN・フジニュースネットワーク)
事業仕分け ジョブカード廃止でキャリア形成促進助成金は廃止?/成澤紀美コラム(マイベストプロ東京・読売新聞東京本社広告局)

このジョブ・カード制度は,主に正社員としての職務経験が少ない若年者を対象にした就職支援制度で,履歴書と職務経歴書をミックスしたジョブ・カードというツールを活用することで就職活動やキャリア支援に役立てようというものです。
いちおう「若年者」が主たる対象ですが,実際にジョブ・カード制度利用者の中には中・高年者もかなりおります。
厚生労働省の定義によると「過去5年間において、おおむね3年以上継続して正社員として働いたことがある方以外の方」を対象とする制度ということです。

わかりづらい表現ですが,「過去5年間にだいたい3年以上継続して正社員ではなかった人」を対象に運用されている制度だということ。
つまり,フリーターやパートタイマー,派遣社員などの非正規雇用者または就業経験のない人が正社員として働けるようにしましょうというのが趣旨です。

このジョブ・カード制度は,単にジョブ・カードというツールを就職に役立てようというだけではなく,就業に必要なスキルを職業訓練を通じて習得させ,それをハローワークや職業訓練校などのコンサルタント(有資格者)が承認し,訓練受講者の就職をバックアップしようという狙いがあります。

特にこの制度のウリとなっていたのが,企業での実習を実施し,企業の現場担当者が訓練受講者の仕事ぶりを評価するというところです。
職業訓練校の教官ではなく,就業現場の担当者が評価するということで,その評価はかなり信頼度が増し,実際の就業に役立つスキルの証明になると期待されていました。
また,この企業実習を通じて,実習先での就業実績から訓練受講生を雇用しようという企業が現れることも期待されていました(実際に,雇用にまで至った例がいくつもあります)。

【ジョブ・カード制度関連情報】
「ジョブ・カード制度」のご案内(厚生労働省)
政策レポート:ジョブ・カード制度(厚生労働省)
ジョブ・カード事業(日本商工会議所)

求職者と企業とのマッチングも意図して実施されていたジョブ・カード制度ですが,それほど普及しておりません。
日本商工会議所や各地域の商工会議所,一部の企業においてPRが行われていましたが,あまり効果を挙げていません。

実は私,この仕事の関係でジョブ・カード制度に一時期関わった事があります。
その際の経験から申し上げると,ジョブ・カード制度自体はそれほど悪い発想ではなかったと思います。
特に,企業実習を通じて求職者と企業とのマッチングを図るというのは,企業にとっては必要な人財を見極めることができ,一方の求職者は自分が希望する企業なのかを判断することができる,互いにとってそれなりにメリットはあるという印象を受けました。
ただし,1回だけなんでマッチングに失敗すると後はありませんけど,チャンスを生かすも殺すも当事者次第なんで,そこはあえて詳しく申し上げませんが…。

運用上,いろいろと問題があると指摘を受けることは多々ありましたが,ジョブ・カード制度自体を否定する意見というのは,これまであまり聞いたことがありませんでした。

しかし,雇用促進に大して貢献していない(実績が上がっていない)ということで行政刷新会議で「廃止」判定がされていましたが,ではなぜ雇用促進に貢献できなかったのか。

まず第一に,予算の問題。
この制度って,かなり金がかかるんですよね。

この「職業能力形成プログラム」受講者に対する職業訓練は無料ですし,生活維持のために補助金も支給します。
さらに,実習先企業に対しても受入れた受講者1人当たりにかかる費用分は助成金が支給されることになっています。

当然,予算は無尽蔵にあるわけではありませんから,すべての求職者に対してジョブ・カード制度を適用できませんし,受講者数を抑制しなければなりません。
したがって,雇用促進に劇的な効果を挙げることが本来難しい制度なのです。

そして第二に,企業の非協力。
この制度は企業実習がウリなのにもかかわらず,受け入れようという企業が非常に少ないということ。
手続上,かなり面倒くさい(助成金払うんだからある程度しかたないのですが)ので,二の足を踏む企業も多いようです。

しかし,それだけではないのですよね。
実際のところ,助成金が少ないから断るとか,職業訓練なんてうちとは関係ないとかいう,自分たちのことだけしか考えていない企業というのは非常に多い。

この職業訓練は,単に失業率を抑制することを目的としているだけではなく,求職者のスキルをアップすることによって,就業者全体の技能の底上げを図ることも意図されているわけです。
つまり,日本の労働者全体の質的向上を目的としているのですが,そんなことは関係ないといわんばかりに協力を惜しむ企業が圧倒的多数なのです。

経団連などは,早いとこ景気を何とかしろというような発言をして,政府に対して効果的な景気復興策を要求しますが,彼らは政府に圧力をかけるばかりで,自ら有効な行動指針を表明し,具体的に行動することは非常にまれです。
ただ,クレクレいうばかりの他力本願で景気がよくなりゃ苦労はしません。

経済が上向くか否かは企業の努力次第なのですが,どうしたら景気が上向きになるかを考え,実践していない企業が,自分たちは協力しないくせに政府に要求ばかり突きつけるというのはいかがなもののでしょうか?

商品やサービスを消費しているのは一体誰なのかを,このような企業人たちは考えたことがあるのでしょうか?
雇用促進に協力するということは,失業率の低下を促し全体経済の活性化につながる有効な施策のはずです。
ところが自らの果すべき役割を自覚せずに,要求ばかりが多いのは非常に問題です。

ジョブ・カード制度の普及・周知に努力されている企業・団体がある一方で,このような非協力的な企業・団体が非常に多いというのは嘆かわしいことといわざるを得ません。

他にも,考えられることは多々あると思いますが,長くなってしまいましたのでこの辺で…。

事業として効果の挙げられなかったものを「廃止」と判断するのは,ある程度しかたがないことだとは思いますが,今回の事業仕分けがこのような背景をきっちりおさえた上での判断なのかは,多少疑問が残るところではあります。

いずれにせよ,「無駄の温床」として国家財政のブラックボックスと見なされている特別会計予算ですから,かなり厳しい目で見られるのはいたし方ないとはいえ,「職業情報総合データベース運用事業」などのくだらない事業といっしょくたに捉えられているのは,あまり納得はできないかなとは思います。
by mmwsp03f | 2010-10-28 12:24 | 労働問題