まあ思いついたことをつらつらと書き綴っています(写真は奥多摩から見た富士山)。


by M.M@Kanagawa
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第九陸軍技術研究所(その3)

第一科が研究していた主な兵器としては,特殊無線装置,電気殺人兵器,風船爆弾があります。

特殊無線装置は,より無線機を小型化して携帯性を高めることを目指す研究のようです。

電気殺人兵器として開発が進められていたものに怪力電波(くゎいりきでんぱ)があります。
この怪力電波(暗号名:く号研究)は,現在電子レンジに応用されているマイクロウェーブ波を照射して敵兵を殺すための装置です。

鉄人28号や鉄腕アトムのような昔のSF漫画などでビームを照射して敵を倒す兵器が登場するのを見たことがある方もいらっしゃると思いますが,そのようなものを想定していたようです。

ですが,人間を倒すには相当な電力を供給しなければならず,当時の技術ではモルモット等の小動物を殺す程度のものしかできず,実用性はかなり低かったようです。しかも,やたらでかいので運搬にも難があり,トラックや戦車に搭載しても電力が確保できないので,結局使い物にならないということで立ち消えになった模様・・・。

第一科が実用化した兵器として特に注目されているのが風船爆弾(暗号名:ふ号研究)です。

当初は,宣伝ビラを敵陣後方へバラ撒くことを想定して考案されたそうですが,1942年に空母ホーネットから発進したジェームズ・ハロルド・ドゥーリットル陸軍中佐率いるB-25爆撃編隊による初の日本空襲(東京・横浜・川崎・横須賀・名古屋・四日市・和歌山)を契機に,アメリカ本土への爆撃を前提として開発が進められることになりました。

ドゥーリットル空襲は,かのミッドウェー作戦決定に多大な影響を及ぼしましたが,結局作戦は失敗し,空母4隻を失うことになります。これによってアメリカ本土への侵攻および爆撃機による空襲は不可能となります。そこで注目されるようになったのが風船爆弾だったわけです。
このような事情から「最終決戦兵器」として風船爆弾の開発が正式に決定します。
どれだけ効果が期待できるかわからない風船を使った兵器を「最終決戦兵器」というのは冗談みたいな話ですが,それだけ陸海軍はともに追い詰められていたことを示しているともいえます。

ジェット気流に乗せて遥か8000km超のアメリカ本土へむけて風船を飛ばすのは並大抵のことではありません。
当時は現在のように気象衛星から気象データを収取する方法がなかったため,登戸研究所の技能と知識の粋を集めてあらゆる可能性を検討し,確実にアメリカ本土を空襲できる無人風船による爆撃技術の開発が進められました。

d0104959_1117856.jpg【風船爆弾模型】
登戸研究所資料館所蔵

(館内は原則撮影禁止ですが,撮影および写真のブログへの掲載については資料館から特別に許可をいただいています)

この風船に使われていた自動高度保持装置は,当時としてはかなり高度な技術が投入された優れものの機器だそうで,気圧の変化に応じて風船の下部に吊るされた砂袋のおもしを自動的に切り離して高高度を維持することができたそうです。

しかもスパイ大作戦じゃないですが,「自動的に消滅する」ように自爆装置も搭載されていました。

風船の素材はこんにゃくから作った糊と和紙で,水素ガスが抜けないように機密性を高める工夫がなされています。


やがて1944年10月に風船爆弾によるアメリカ本土攻撃の指令が発せられ,翌11月より1945年3月までの期間,15000個の風船爆弾が千葉県~福島県の沿岸地域から放たれました。

それで戦果はどうだったかというと,確認されているものでアメリカ本土中西部18州に361個が到達し,不運なことに六人が死亡したということです(想定では約1000個到達)。
およそ2.5%の低い到達率ですが,わりと広範囲に被害を及ぼしたようで,カナダやメキシコにまで到達したという記録が残っているようです。

この風船爆弾が送電線に引っかかって電線を切断し,原爆製造用の原子炉がストップしてしまったためマンハッタン計画を三日間停止させるという戦果もあったそうですが,これが広島・長崎への原爆投下を阻止し得なかったというのは皆さんご承知のとおり。

だけど,アメリカ政府は風船爆弾の国民への心理的効果を恐れて,これを公表しなかったそうです。1938年10月のラジオドラマ『宇宙戦争』で「火星人が攻撃してきた」と大パニックが起こったという過去があるので,そのような懸念を持ってもおかしくはないと妙に納得。

日本では「死傷者500名突破」と公表されたそうですが,さすが大本営。83倍を超える水増し発表です。
でも,風船爆弾が戦局にまったく影響を及ぼしていなかったことは,その後の歴史が示すとおりです。
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by mmwsp03f | 2010-06-21 11:23 | HP(歴史)